2022年度予算審議に望む -受療権と医療提供体制の確保、所得格差の改善と低所得者救済につながる政策を

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1月17日から始まった通常国会の施政方針演説で、岸田首相は、「経済再生の要は、『新しい資本主義』の実現」であると述べた。新自由主義に基づく資本主義下で生じた「市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大」「行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差」「自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題」「分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機」などの弊害は、是正の仕組みを埋め込むことで解決するという。

イギリスの経済学者らが、1965年からの50年間、日本を含む先進18か国での、富裕層への大幅減税政策を調査した。その結果、富裕層減税は社会全体を豊かにしないだけでなく、経済発展にもほぼ効果がないと発表した。また、貧困問題に取り組む国際NGO・オックスファムは、世界の貧困層がパンデミックで苦しむなか、一握りの超富裕層の純資産が倍増していると公表し、「激しい不平等は偶然に生み出されたものではなく、少数の特権層に有利な政策をとってきた『経済的な暴力』の結果だ」と述べた。

「コロナ禍における所得格差の実態」(「経済のプリズム」(2021.11))では、家計調査から2021年の年間値を推計。実収入の前年比は、世帯を年間収入順に並べ5等分した「所得の五分位」の最低位層の減少率が最も大きく、最も収入の多い層だけがプラス。両者の差は2010年代初頭から急拡大し、可処分所得でもその差は拡大傾向が続く。国民生活基礎調査から1996年と2019年の可処分所得を比べると、400万~650万円台で5%以上減少し、200万円以下では倍増している。2021年10月の生活保護の申請件数は1万8000件余、6か月連続で増加。貧しい層はさらに貧しく、中間層が下の層へと落ちている。

コロナ禍で顕在化した脆弱な医療提供体制によって多くの自宅療養者と死亡者が発生した。医療機関は、コロナ関連補助金でかろうじて破綻を免れている状況であり、とりわけコロナ対応に尽力する公立病院の厳しさは著しい。歯科では材料費支出が大きく増えている。政府予算案は、医療・福祉従事者の負担軽減や離職対策に処遇改善費用を盛り込むが、その幅は小さく、そもそも賃金水準が低い保育労働者などからは「焼け石に水」との声も出ている。感染拡大によって診療停止を余儀なくされる医療機関も増加しており、診療報酬による処遇改善策では意味をなさないのではないか。

岸田首相が言う「新しい資本主義」は、多分野でのデジタル化推進を柱とする。医療ではマイナンバーカードのシステム整備に735億円、マイナポイント第2段も企図されている。与党や野党の一部は「デジタル田園都市構想」を明るい未来とばかりに語るが、デジタル化によって損なわれる基本的人権、情報漏洩対策は取るに足らないことか。「効率化」が優先され、際限なく利用範囲が拡大されていく懸念も強い。「人的投資」を重視するとも繰り返すが、「聞く力」を持つ首相は、日本の賃金が他の先進国に比べて伸びておらず、労働者の5人に1人がワーキングプアで、年収200万円以下は15年連続で1千万人以上であることを知っているのか。全体の所得アップで消費改善を図らなくては、経済の浮上も見通せない。所得改善と社会保障拡充は、将来不安を解消し、人口減少に歯止めをかけることにもなろう。

コロナで露呈した綻びは、新自由主義的政策の微調整で繕えるものではない。今こそ、命と暮らしを守るための受療権の確保(=医療提供体制の維持・確保)、所得格差の改善と低所得者救済に実効性のある政策を切望する。