PFAS対応~住民の健康対策は国が責任をもって~

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 有機フッ素化合物PFAS(ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物)は、水分や油分をはじき難分解性という特質を持ち、1万種以上の物質があると言われる。PFASのうちPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)は半導体用反射防止剤・レジスト、金属メッキ処理剤、泡消火薬剤等、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)はフッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤等に使用される 。PFASが人体に及ぼす影響への懸念が高まり、国際条約などで、PFOSやPFOA、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)の製造・使用・輸入が禁止されるようになってきている。

 2019年から2021年度に環境省が自治体と連携して行う水質測定で、暫定指針値(50ng/L以下)を超過した地点は延べ139地点(測定地延べ1477地点)であった。沖縄県の河川で1500ng/L超、兵庫県、千葉県、神奈川県の河川でも200ng/Lを超えて検出された。地下水では、大阪府や沖縄県、東京都などで高値となっており、500ng/L超は全国で13か所になる(2021年度測定)。広島県でも昨秋、東広島市の瀬野川で140ng/Lという値が検出された。高値を検出した則重橋付近には米軍川上弾薬庫があり、岩国基地周辺ではアメリカの市民団体が水質調査も実施している。

 基地や工場の排水から環境中に漏れ出たPFASが、自然界で分解されることなく蓄積され、地下水や土壌へ、川から海へとひろがる。沖縄の宜野湾や北谷の住民検査では、PFOSなど3化合物の合算値が全国平均の3倍(平均21.3ng/mL)という値が検出され、多摩地区でも全国平均の2.4倍、岐阜県各務原市で平均32.2ng/mL、岡山県吉備中央町の浄水場周辺ではPFOAが平均171.2ng/mLと米国の指針値の8倍に上っている。

 アメリカの全米アカデミーズがまとめたガイダンス(2022年)によれば、動脈硬化の原因となる脂質異常症、腎臓がん、ワクチン接種による抗体反応の低下、胎児や乳児の成長・発達への影響への関連を指摘している。PFOAを製造していた工場に関わるアメリカの訴訟では、大規模な疫学調査が実施され、その結果から、妊娠高血圧症・妊娠高血圧腎症、精巣がん、腎がん、甲状腺疾患、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症への影響が確認されている。

 アメリカは年内に包括的環境対策補償責任法(CERCLA)の有害物質リストに加えることを目指しており、これにより責任の明確化を図り、処理・浄化費用の負担を課すという。日本では、2023年7月に環境省の「PFAS総合戦略検討専門家会議」で、「血中濃度のみを測定しても健康影響を把握することができない」として、汚染濃度が高い地域での調査を「慎重に検討すべきだ」という案を示し、専門家委員から、自治体の検査を消極的にしかねない「後ろ向き」なものと批判を受けることとなった。沖縄の北谷では浄水場の粒状活性炭の交換に年間3.5億円を支出する。2023年度までは工事費の7割を防衛省が補助するがその後は決まっておらず、発生源の汚染を除去しなければ恒久的な支出となる。一方で、米軍は基地内の調査に否定的な姿勢をとり続けている。

 全国にひろがるPFASの汚染源解明と情報開示を自治体まかせにすべきでない。日米地位協定にも及ぶ問題であり、国が責任を持って対応することが望まれる。そのうえで、科学的根拠に基づく規制と責任の所在を明確化する法整備を急ぐ必要がある。また、飲料水の汚染低減策や住民の検査に関わる費用も、国が責任をもって行うべきである。